いや、ここからは一人で行ける。

 

 

幼い日に覚えた悲しみが

「今も忘れられない」と打ち明けてくれた

 

過去の傷でさえも
愛し過ぎたから

気持ちが伝わりすぎて


壊れないように

消えないで
そう手を繋げば良かった

 

 

 

 

 

 

 

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大切な仲間が一人。

子宮ガンになりました。

 

 

無理をして

体力も気力も限界の底の底まで

使い切りながら

 

 

それでも

 

笑いながら

ただひたすら努力を重ねて

"前向き"に仕事をするヒト。

 

 

そんな彼女に嫉妬した日もありました。

 

 

美しくて

 

前向きで

 

輝いている彼女は

 

いつも、とてもとても強くて

 

嫉妬する事が恥ずかしくなるほどに

 

外見だけじゃなくて

 

全てが美しいヒトで。

 

 

 

歳下の上司なのに

 

きちんと私を敬い

 

そして可愛がってくれる彼女が

 

私は大好きで。

 

 

 

その知らせを聞いた時、

 

彼女から直接聞けなかった悲しみと

 

その、病気という現実の重みに

 

私は耐えられる事が出来ず。

 

 

 

自分の弱さ、故だったのかな。

 

何も分からなくなりました。

 

 

自分の感情も、これから先も何もかも。

 

 

 

その時

 

彼氏でも他の誰でもなく

 

君という存在の

 

君の腕の感触を思い出して

 

心が収まるのを待ちました。

 

 

 

君以外いなかった。

 

 

脳の記憶のなかの

 

ぼんやりとした空気の中の

 

君の体温。

 

 

忘れかけていた記憶の端を

 

辿った。

 

 

 

 

ただ現実、

 

君に言ったら

 

"どう"

 

なるんだろうと考えた一瞬の後。

 

 

 

 

 

 

私は違う番号に手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

すぐに来て抱き締めてくれた

 

君とは全く違う優しい瞳の

 

君の腕じゃないぬくもりは

 

 

 

ちゃんとあたたかった。

 

 

 

 

 

 

私はきっともう大丈夫だよ、と

 

目の前のやわらかい髪を撫でながら

 

 

君を思った。

 

 

 

 

 

 

 

ひとつだけ

 

驚いた事がある。

 

 

 

 

君じゃない腕は

 

君より何歳も若い腕は

 

 

今までのどの時よりも

 

私を強く抱いたんだよ。

 

 

目の前で揺れる柔らかな明るい髪が

 

なんとなく不釣り合いに思える程。

 

 

 

そしたらね

 

気付いたら

 

私は

 

涙を流しながら

 

彼に抱かれてた。

 

 

 

 

 

やっと泣けた場所が

 

君じゃなかった。

 

 

 

 

なんで?

教えてはくれないよね。